インプラント治療を希望される方の中には、すでに歯を失われてから時間が経過しているために顎の骨が痩せて薄くなり、通常の埋入が難しいと診断されるケースが少なくありません。骨の幅が足りない、骨の高さが上顎洞や下顎管との関係で不足している、軟組織(歯ぐき)の厚みが薄いなど、状況はさまざまです。新浦安ハーヴェスト歯科・矯正歯科では、こうした症例に対して、学会のコンセンサスに基づく骨組織・軟組織のマネジメント技術を用い、安全と長期予後に配慮した治療計画をご提案しております。本記事は「学会治療指針から読み解くインプラント治療の世界」シリーズ第12回として、公益社団法人 日本口腔インプラント学会『口腔インプラント治療指針2024』第13章「骨組織・軟組織のマネジメント」を中心に、GBR、サイナスリフト、ソケットリフト、ソケットプリザベーション、軟組織移植などの考え方を解説いたします。
1.なぜ骨と軟組織のマネジメントが必要なのか
歯を失った後、その部位の歯槽骨は時間経過とともに吸収(骨が痩せる現象)が進行します。学会指針第13章は、抜歯後数か月から1年で歯槽骨の幅・高さがおよそ25〜50%程度減少しうるとする複数の研究を引用しており、特に唇側(頬側)の骨は著しく吸収しやすいことが知られています。さらに、長期間義歯を使用していた部位や、慢性炎症のあった部位では、骨吸収が顕著に進むことがあります。インプラント体を長期に安定して機能させるためには、その周囲に十分な厚みと高さの骨組織、そして健康な角化粘膜(しっかりした歯ぐき)が必要です。骨と軟組織の不足を補う技術は、見た目の自然さだけでなく、感染予防・力学的安定性・清掃性のすべてに関わる重要な要素です。
2.学会指針第13章が示す基本概念
学会指針第13章では、骨組織・軟組織のマネジメントを大きく次の柱で整理しています。第一に「骨造成術」で、欠損した骨を補うための外科手技です。具体的にはGBR(Guided Bone Regeneration:骨誘導再生法)、サイナスリフト(上顎洞底挙上術)、ソケットリフト、ブロック骨移植、リッジスプリットなどが含まれます。第二に「歯槽堤保存術」で、抜歯時に骨吸収を最小限にとどめる処置(ソケットプリザベーション)です。第三に「軟組織マネジメント」で、角化粘膜の確保と歯肉退縮の予防・修復、審美的な歯肉形態の獲得などを目的とします。指針は、これらの術式を適応症・予測される効果・リスク・代替手段・費用面を含めて患者に十分に説明し、同意を得たうえで実施することを求めています。
3.GBR(骨誘導再生法)
3-1.GBRとは
GBRは、骨欠損部に骨補填材(自家骨、他家骨、人工骨など)を填入し、その上を遮断膜(バリアメンブレン)で被覆して、骨形成を妨げる軟組織の侵入を防ぎながら骨の再生を誘導する手技です。学会指針第13章は、GBRの適応として、骨幅または高さがインプラント埋入に不十分な症例、唇側骨壁の欠損、抜歯と同時に埋入する際の骨ギャップの充填などを挙げています。膜は吸収性(コラーゲン膜など)と非吸収性(チタン補強PTFE膜など)があり、欠損形態と必要な骨量に応じて選択されます。
3-2.使用される骨補填材
学会指針は、骨補填材を自家骨(患者自身の骨)、同種骨、異種骨(牛由来など)、人工骨(β-TCP、ハイドロキシアパタイトなど)に分類しています。自家骨は骨形成能が高いとされる一方、採取部位の侵襲を伴います。異種骨は形態保持に優れますが、長期間吸収されない場合があります。当院では、症例に応じてこれらを適切に組み合わせ、薬機法に基づき承認された医療機器を使用いたします。
3-3.GBRのタイミング
GBRは、インプラント埋入と同時に行う「同時法」と、先にGBRを行い骨が成熟してから埋入する「ステージドアプローチ(段階法)」があります。学会指針は、欠損の大きさ、骨壁の数、初期固定の見込みなどから判断し、安全性と予測性を優先して選択することを推奨しています。広範な水平的骨欠損や、垂直的な骨増生が必要な場合は、ステージドアプローチが選ばれることが多くなります。
4.サイナスリフト(上顎洞底挙上術)
4-1.適応と原理
上顎臼歯部は、歯を失った後に上顎洞(副鼻腔の一つ)の床が下方に拡大することが多く、インプラントを埋入するための骨高径(残存骨高さ)が不足することがあります。サイナスリフトは、上顎洞底の粘膜(シュナイダー膜)を持ち上げ、できた空間に骨補填材を入れて骨高径を確保する手技です。学会指針第13章は、残存骨高径や術式(側方アプローチ、歯槽頂アプローチ)に応じて手技を分類しています。
4-2.側方アプローチ(ラテラルウィンドウ法)
側方アプローチは、上顎洞外側壁に小さな窓を作成し、シュナイダー膜を慎重に挙上して骨補填材を填入する方法です。残存骨高径が極めて少ない症例(おおむね4mm未満)でも対応可能であり、得られる骨量も大きいのが特徴です。一方で、外科的侵襲はやや大きく、上顎洞粘膜の穿孔・術後感染・出血などのリスクが知られています。学会指針は、術前のCT評価でシュナイダー膜の状態・洞中隔の有無・血管走行を確認すること、術後の経過観察と感染対策を徹底することを求めています。
4-3.歯槽頂アプローチ(ソケットリフト)
ソケットリフトは、インプラント埋入窩から上顎洞底を慎重に押し上げる方法で、残存骨高径が比較的保たれている症例(おおむね5mm以上)に適応されます。低侵襲で術後の腫脹も少なく、症例によってはインプラント埋入と同時に行えるメリットがあります。学会指針は、適応の見極めが重要であり、無理な挙上はシュナイダー膜の穿孔リスクを高めるため、術前CT評価が必須としています。
5.ソケットプリザベーション(歯槽堤保存術)
抜歯後の骨吸収を最小限にとどめるため、抜歯と同時に抜歯窩へ骨補填材を入れ、膜やコラーゲンプラグで被覆する処置がソケットプリザベーションです。学会指針第13章は、特に唇側骨壁の保存と将来のインプラント埋入のための骨量確保を目的として、本術式を推奨できる場合があるとしています。すべての抜歯部位で必要なわけではなく、欠損の状態と将来計画を踏まえて適応を判断します。
6.軟組織マネジメント
6-1.角化粘膜の確保
インプラント周囲には、可動粘膜だけでなく一定幅の角化粘膜(しっかりとした厚みの歯ぐき)が存在することが、長期的な健康維持に有利と報告されています。学会指針第13章は、角化粘膜幅が2mm未満の場合にプラーク蓄積・歯肉退縮・インプラント周囲炎のリスクが高まる可能性を指摘し、必要に応じて遊離歯肉移植術や根尖側移動術などの軟組織処置を考慮するよう述べています。
6-2.結合組織移植術
前歯部などの審美領域では、歯肉の厚みと形態が見た目に大きく影響します。結合組織移植術は、上顎口蓋部などから採取した結合組織を欠損部位へ移植し、歯肉の厚みを増やす方法です。学会指針は、審美的予知性を高める手技として記載しており、特にインプラント周囲の唇側組織が薄い症例で適応されます。
6.5.ブロック骨移植とリッジスプリット
水平的・垂直的に大きく骨量が不足する症例では、自家骨ブロックを下顎枝・下顎オトガイ部・腸骨などから採取し、欠損部位に固定する「ブロック骨移植」が選択されることがあります。学会指針第13章は、自家骨は骨形成能と力学的強度の点で優れる一方、採取部位の侵襲(疼痛・腫脹・知覚異常など)を伴うため、必要量と侵襲のバランスを慎重に評価することを求めています。当院では、必要骨量・全身状態・患者さまのご希望を踏まえ、自家骨採取の侵襲が過大となる場合は他の方法を優先します。
また、骨幅は不足しているが高さは保たれている症例では、リッジスプリット(歯槽堤分割術)が適応となる場合があります。歯槽骨を縦方向に分割して幅を広げ、その間隙にインプラントと骨補填材を入れる方法です。学会指針は、皮質骨の厚みや骨質、分割可能な骨形態の有無を術前に評価することの重要性を示しています。下顎前歯部の薄い骨や、皮質骨が極端に厚い症例では適応外となることがあります。
6.6.成長因子と再生材料
近年、骨再生を促進する目的で、PRP(多血小板血漿)、PRF(多血小板フィブリン)、CGFといった患者自身の血液由来成分を活用する方法が報告されています。学会指針第13章は、これらの再生材料について、骨補填材と組み合わせて使用する場合の有効性に関するエビデンスが蓄積しつつあるものの、適応・効果については個別症例ごとに評価する必要があるとしています。当院でも、症例に応じて再生材料の併用をご提案する場合がありますが、患者さまへの十分な説明と同意を前提といたします。
7.術前評価における歯科用CTの役割
骨造成を伴うインプラント治療では、術前に歯科用CT(CBCT)による三次元画像評価が事実上必須です。学会指針第7章および第13章は、CTにより骨幅・骨高径・骨密度・上顎洞底および下顎管との位置関係・近接する血管走行・洞中隔の有無などを評価し、術式選択と合併症リスクの予測を行うことを推奨しています。当院では歯科用CTを完備し、術前計画段階で必要な評価を行ったうえで治療をご提案しております。
8.代表的なリスクと合併症
骨造成・軟組織処置に伴う主なリスクとして、学会指針第13章および関連章では次のような項目が挙げられています。サイナスリフトではシュナイダー膜の穿孔、上顎洞炎、出血、術後感染、移植材の脱落などが知られています。GBRでは膜露出、術後感染、骨形成不全、知覚異常、移植部位の腫脹・疼痛などが起こりえます。結合組織移植では採取部位の疼痛・出血・潰瘍形成、移植片の壊死などのリスクが存在します。これらの頻度を完全にゼロにすることはできず、術前にCT評価・問診・全身状態確認を徹底し、適切な術式選択と感染対策により予防に努めることが重要です。学会指針は、合併症の発生時には早期に発見し、必要に応じて医科主治医や耳鼻咽喉科への紹介を行う体制が求められると明記しています。
9.骨造成を伴う治療の期間とプロセス
骨造成を伴うインプラント治療は、通常のインプラント治療より治療期間が長くなる傾向があります。学会指針第13章は、ステージドアプローチで骨造成を先行する場合、骨補填材の成熟に4〜9か月程度を要し、その後にインプラント埋入、さらに骨結合の完成を待ってから補綴を行うため、全体で6か月〜1年半程度かかる症例が多いとしています。同時法を選択できる症例では、これより短い期間で完了することもあります。治療期間は症例ごとに大きく異なるため、診査結果に基づき個別にご説明いたします。
10.当院における骨造成・軟組織マネジメントの取り組み
新浦安ハーヴェスト歯科・矯正歯科では、骨幅・骨高径が不足する症例に対し、学会指針に沿って術前CT評価、ASA-PS分類による全身評価、医科主治医との連携を行ったうえで、必要な骨造成・軟組織処置をご提案しております。日本口腔インプラント学会専門医およびドイツ国際口腔インプラント学会(DGOI)認定医による術式選択、個室手術室・滅菌管理体制・歯科用CT・生体情報モニタなど、安全と予測性を高めるための環境を整備しております。骨や歯ぐきの状態が複雑な症例については、無理に同時法を選択するのではなく、ステージドアプローチによる安全優先の計画をご提案する場合もあります。
11.よくあるご質問
Q1.骨造成は誰でも受けられますか?
すべての方に適応できるわけではありません。重度の喫煙、コントロール不良の糖尿病、ビスホスホネート・デノスマブ等の骨吸収抑制薬服用、慢性副鼻腔炎などは、適応や予後に影響することがあります。学会指針はこれらのリスクを術前に評価することを求めています。
Q2.サイナスリフトの後はどのくらい腫れますか?
側方アプローチでは術後数日〜1週間程度の腫脹・内出血を伴うことが一般的です。冷罨法・抗菌薬・鎮痛薬の処方と安静で対応します。腫脹の程度には個人差があり、すべての方が同様に経過するわけではありません。
Q3.骨造成をしてもインプラントが入らないことはありますか?
残念ながら、骨造成が想定どおり進まず、十分な骨量が得られないケースは存在します。学会指針もこの可能性に言及しており、その場合は追加処置や治療計画の見直しが必要となります。
Q4.骨が少ない・難症例と判断されたケースでも治療は可能ですか?
適応の可否は、CT診査と全身状態評価を行ったうえで個別に判断いたします。学会指針に沿った術式の選択と安全性評価を経て、可能と判断される場合もありますし、適応外と判断される場合もあります。安易に「他院では不可能でも当院では可能」とお伝えすることはいたしません。診査結果に基づき、率直にご説明いたします。
12.費用・治療期間・主なリスク・副作用
インプラント治療および骨造成は、いずれも健康保険適用外の自由診療です。当院における目安は次のとおりです。インプラント1本あたりの治療費は330,000円〜495,000円(税込)程度、GBRは55,000円〜165,000円(税込)程度、サイナスリフトは側方アプローチで220,000円〜385,000円(税込)程度、ソケットリフトで55,000円〜110,000円(税込)程度、結合組織移植は55,000円〜110,000円(税込)程度を申し受けます。治療期間は、骨造成併用の場合6〜18か月程度を要します。主なリスク・副作用としては、術後の腫脹・疼痛・内出血、上顎洞穿孔・上顎洞炎、移植材の脱落・感染、神経損傷による知覚異常、移植部位の壊死、骨形成不全、インプラント体の骨結合不全などが挙げられます。これらの頻度を完全にゼロにすることはできません。当院で使用する骨補填材・遮断膜・インプラント体は、薬機法に基づき承認された医療機器を使用しております。
13.ご相談・お問い合わせ
新浦安ハーヴェスト歯科・矯正歯科は、JR京葉線・武蔵野線「新浦安駅」徒歩1分、新浦安TKビル3Fにございます。骨が痩せている方、過去にインプラント治療が難しいと診断された方も、まずは初診カウンセリングでCTを含む診査をお受けいただくことをおすすめします。お電話047-323-6766、または公式サイトの予約フォームよりご予約を承っております。
出典・監修
本記事は、公益社団法人 日本口腔インプラント学会編『口腔インプラント治療指針2024』(医歯薬出版、2024年)第13章および関連各章の内容に基づき、新浦安ハーヴェスト歯科・矯正歯科の日本口腔インプラント学会専門医・ドイツ国際口腔インプラント学会(DGOI)認定医が執筆・監修しました。本記事の内容は一般的な解説であり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。
次回予告
シリーズ第13回は、学会指針第14章・第15章「補綴とデジタル技術」を取り上げ、インプラント上部構造の材質・設計、CAD/CAM・ガイデッドサージェリーなどのデジタル技術の役割について解説いたします。
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監修者:歯科医師 坂巻 良一
